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徳島地方裁判所 昭和53年(行ウ)6号 判決

原告 藤本政太郎

被告 日本専売公社徳島地方局長承継人 国

主文

一  被告が昭和五三年三月一七日付で原告に対してしたたばこ災害補償金不交付処分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五〇年以降、日本専売公社(以下「公社」という。)の許可を受け、徳島県美馬郡脇町において、たばこ(第二黄色種)耕作を行つてきたが、昭和五二年も別表(一)記載の耕作地においてたばこを栽培した。

2  ところが、昭和五二年五月ころ脇町地方のたばこ耕作地ではモザイク病及びうどんこ病等の病害が発生し、また同年七月下旬ころから同町岩倉地区で立枯病が異常発生し、更に同年七月中旬から同年八月中旬にかけて降雨量が少なく、原告の耕作地は水利が極めて悪かつたため、たばこの成育が悪く、著しい被害を受けた。

原告は、同年六月二三日から同年八月一八日まで葉たばこの収穫を行つたが、その乾燥後、うどんこ病に冒されているものが大量に発見されて、これらを廃棄した。特に岩倉地区の別表(一)の31ないし38記載の耕作地から収穫した土葉と中葉がほとんど全滅という状態であつた。

3  右病害及び干害のため、原告の同年における一〇アール当りの収納量は一〇八キログラム、その収納代金は一〇万一九八一円にとどまり、前年における一〇アール当りの平年収納量二九九キログラム、収納代金四三万六九九二円の一〇分の七に達しなかつた。

4  そこで原告は、被告に対し、たばこ専売法二四条、同法施行規則七条に基づき災害補償金交付申請をしたところ、被告は、昭和五三年三月一七日付で、原告の納入した葉たばこと訴外藤村昌一(以下「藤村」という。)のそれとが混合して納入されているので、原告の被害の状況、程度が確定しえない、との理由で災害補償金を交付しない旨の処分(以下「本件処分」という。)をした。

5  しかし、本件処分は、前記法条等に違反し、違法である。

よつて、本件処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。ただし、昭和五二年の原告の耕作地は別表(二)記載のとおりである。

2  同2のうち、昭和五二年五月ころ、脇町のたばこ耕作地でモザイク病及びうどんこ病が発生したことは認め、原告が同年六月二三日から同年八月一八日まで葉たばこを収穫したことは不知。その余の事実は否認する。

3  同3のうち、原告の昭和五二年の一〇アール当りの収納量が一〇八キログラム、収納代金が一〇万一九〇一円であつたこと、原告の昭和五一年の一〇アール当りの収納量が二九九キログラム、収納代金が四三万六九九二円であつたことは認める。その余は争う。

4  同4の事実は認める。

5  同5の主張は争う。

三  被告の主張

1  原告は、昭和五〇年たばこ耕作を始めて以来、原告とは別に耕作許可を受けた藤村とともに、訴外脇町農業協同組合に委託された休耕地を借り受け、雇用労働力と機械力により脇町大規模農場(以下「農場」という。)と称して大規模なたばこ耕作を行つている者である。

2  公社は、原告に対し、昭和五二年のたばこ耕作につき、江原地区及び岩倉地区の耕作地三五か所、耕作面積二四六・五アール(検査面積、すなわち実植面積二四五・三アール)で栽培することを許可した。なお、同年における原告と藤村の耕作地等の対比は別表(三)記載のとおりである。

3  ところで、公社は、かねてから、前記農場におけるたばこ耕作の実態は、藤村は耕作の経験があるが、原告にはその経験がないこと、両名の耕作地は同一の雇用労働者によつて、耕作、収穫、乾燥、貯蔵その他すべての作業がなされ、施設も共同にしていること、公社に提出する書類等において両者の耕作地を併せて大規模農場と称していること、農場として収支が一体であることなどから藤村と原告の共同経営ではないかとの疑念を抱き、昭和五二年の耕作許可に際し、右両名に対し、収穫から納入に至るまでの各作業等について各人ごとに明確に区分するように特に指示した。

4  次に、昭和五二年における原告及び藤村の各作柄状況、被害状況は以下のとおりであつて、両者の作柄状況はいずれの調査においても著しい開差は認められなかつた。すなわち、

(一) 昭和五二年六月一三日に行われた公社の脇町葉たばこ生産事務所(以下「生産事務所」という。)管内作柄検討会における検討結果から、農場の作柄状況は、江原及び岩倉両地区とも一〇アール当り約二五〇~二六〇キログラムの見込みであつた。

(二) 同年七月二五日の生産事務所の担当職員の調査によると、農場平均一〇アール当り二三〇キログラム程度の収量と見られた。

(三) 同月二八日原告から岩倉地区の病害発生に対する特別指導の要請があり、同日、生産事務所担当職員が現地調査を行い、同地区における原告の耕作地にモザイク病、うどんこ病が発生している事実を確認した。

(四) そして、同年八月四日及び六日の両日にわたり江原、岩倉の各地区を生産事務所担当職員が巡回した際の作柄の把握では、農場のうち、江原地区は一〇アール当り約二二〇キログラム、岩倉地区は一〇アール当り約一八〇~一九〇キログラムで、農場全体としては一〇アール当り二〇〇キログラム程度の作柄であると見ていた。

5  次いで、葉たばこの管理状況であるが、昭和五二年九月一三日生産事務所担当職員二名が、農場の作業場及び貯蔵場において原告及び藤村の葉たばこの貯蔵保管について調査したところ、各人ごとに区分して貯蔵保管されていないことを確認した。

このことについて、同日、生産事務所担当職員が、農場の収穫、乾燥、選別、貯蔵の各作業に従事した作業員に対して行つた聴取り調査によれば、収穫、乾燥作業の段階では、江原、岩倉地区に区分して作業を実施していたものの、江原地区においては原告と藤村の葉たばこは区分しておらず、また、選別、貯蔵作業の段階では、江原、岩倉地区の区分さえもせず作業を実施していたことが判明した。

したがつて、前記のとおり、特に各人ごとに区分するよう指示して耕作許可を与えたにもかかわらず、原告と藤村の葉たばこは区分されておらず、混合されていることが明らかである。

6  そして、同月一五日原告の葉たばこが生産事務所に納入されたが、生産事務所の把握している作柄状況(江原地区一〇アール当り約二二〇キログラム、岩倉地区一〇アール当り約一八〇~一九〇キログラム)に対し、買入れ重量は一〇アール当り一〇八キログラムと著しく少なかつた。

続いて、同月一七日藤村の葉たばこが納入されたが、前記作柄状況に対し、買入れ重量は一〇アール当り三〇二キログラムと著しく多かつた(両者の納入量目を合算して一〇アール当りを算出すると、二〇〇キログラムとなり、前記作柄調査の結果と合致する。)。このことは、岩倉地区及び江原地区における作柄状況並びに原告と藤村の作柄に著しい開差はないと認められたことと極めて掛け離れており、これらの事実からして、原告と藤村の葉たばこが混合して納入されたものと推認された。

7  右の経緯の中で、同年八月一日原告は、被告に対し、「昭和五二年度たばこ災害補償金交付申請書」を提出した。

右申請書に記載された災害の内容は、同年五月末から六月末の間モザイク病によるもの四二・二アール、同年六月一〇日から七月二〇日の間、立枯病によるもの四八・〇アールというものであつた。

8  たばこ災害補償は、たばこ専売法、同法施行規則の定める災害によつて当該年度に耕作した葉たばこの収納代金が平年度の収納代金の一〇分の七に達しなかつた場合に、補償の対象となる被害の状況及び程度の認定をした上、その程度に応じた補償金を交付する制度であるが、被告は、前記3ないし6のとおりの事実に基づき、原告と藤村の葉たばこが混合されて納入されたものと認定せざるを得ず、その結果原告の被害の状況及び程度の認定ができないため、原告に対する災害補償金の交付をしない旨の決定をしたものであつて、本件処分は適法である。

四  被告の主張に対する認否及び反論

1  1の事実は認める。ただし、農場という名称は、公社のたばこ耕作地増反計画を報道した新聞がその記事の中で使用したため、以後便宜的にこれを使用しているにすぎない。

2  2の事実は認める。

3  3の事実は否認する。

4  4ないし6の事実のうち、昭和五二年における原告のたばこ納入量が一〇アール当り一〇八キログラムであり、藤村のそれが三〇二キログラムであつたことは認める。その余は争う。

(一) 昭和五二年六月一三日の時点では、たばこの植付検査を行つたところであり、作柄の見込みなど検討することは不可能である。

(二) 原告の耕作地では、同年六月二三日から葉たばこの取入作業に掛かり、同年八月一五日ころにはその作業をすべて終了したものであつて、同年八月四日あるいは六日ころには耕作地にはたばこは存在せず、わずかの耕作地において残余の天葉の取入作業がなされていた時期である。このような時期に担当職員が耕作地を巡回して作柄を把握することができるはずがない。

(三) 原告の葉たばこの納入量が少なかつたのは、病害を受けた葉たばこを大量に廃棄したためであり、その廃棄については同年七月初めころ生産事務所の逢坂主任に報告済みである。

5  7の事実は認める。

6  8は争う。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1の事実(原告のたばこ耕作地の所在及び面積の点を除く。)及び昭和五二年五月ころ、脇町のたばこ耕作地でモザイク病やうどんこ病が発生したこと、原告の昭和五一年における一〇アール当りの葉たばこ収納量は二九九キログラム、収納代金が四三万六九九二円であつたが、昭和五二年のそれは収納量が一〇八キログラム、収納代金が一〇万一九〇一円(原告は一〇万一九八一円と主張するが誤記と認める。)にすぎなかつたこと、そして、原告は、昭和五二年のたばこ耕作につき、病害等により著しい損害を受けたとして、たばこ専売法二四条、同法施行規則七条に基づき被告に対し、災害補償金の交付申請をしたこと、これに対し、被告は昭和五三年三月一七日付で、原告の納入した葉たばこと藤村のそれが混合されて納入されているため、原告の受けた被害の状況、程度が確定できないとの理由で、原告の右申請を却下する旨の本件処分をしたことはいずれも当事者間に争いがない。

二  右当事者間に争いのない事実と、証人藤村昌一の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一号証、同証言及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同第二、七、八号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる同第一一号証の一ないし五一、第一二号証の一ないし五六、証人工藤安夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第二号証、第七号証の一・二、成立に争いのない同第一一号証の二、証人上田照子、同南充明の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。この認定に反する証拠は、後記三のとおり、いずれも採用できない。

1  原告と藤村は、公社のたばこ増反計画を受けて、昭和五〇年から徳島県美馬郡脇町内の休耕田約五ヘクタールを借地し、農場と称してたばこ耕作を始めた。原告は、訴外脇町葉たばこ耕作組合岩倉支部に勤務していたものの、たばこを耕作した経験がないため、藤村が原告のほ地を含む農場全体の耕作を引き受け、原告の農場の経理を担当していたが、右の耕作作業や経理は原告のほ地と藤村のほ地とをそれぞれ区分して各別に行つていた。

2  ところで、昭和五二年度は、原告が同町江原地区に一五か所、同町岩倉地区に二〇か所、検査面積二四五・三アールのほ地について、藤村が江原地区に二七か所、検査面積二一九・九アールのほ地についてそれぞれたばこ耕作許可を受けた。右許可に係る耕作地は、藤村分については、前年使用ほ地の四割程度を替地したものであつたが、原告分は、昭和五〇年以降同一ほ地で連作する結果となつた。藤村は、昭和五二年二月一四日(以下「昭和五二年」の記載を省略する。)から農場の耕作準備を始め、三月二五日から四月二日にかけて各ほ地にたばこ(第二黄色種)の苗を移植した。そして、四月二七日から同月三〇日にかけて藤村のほ地には配合肥料とカリ肥料の追肥を、五月三、四日に原告のほ地にカリ肥料のみの追肥を行つた。

3  五月三一日当時の江原地区の成育状況は、原告のほ地については、全般に貧弱な出来であり、別表(二)の番号11ないし16、18、19記載の各ほ地ではモザイク病が発生して収穫が危ぶまれ、同17記載のほ地は、用水からの漏水のため根腐りが激しく、収穫は殆ど見込まれない状態であつた。これに対し、藤村のほ地については、モザイク病にかかつたたばこが点在するものの、総じて幹の太い大柄の出来であつた。

他方、六月一日当時の岩倉地区の成育状況は、別表(二)の番号7、8、20ないし24記載のほ地はまずまずの出来であり、同9、25ないし27、29、38記載のほ地は出来は良かつたものの幹に黒斑が多く現われており、同30ないし37記載のほ地は幹が細かつた。

4  七月一日当時の作柄状況は、藤村のほ地については、出来が良く一〇アール当り三〇〇ないし三一八キログラム(八〇ないし八五貫)の収穫が見込まれ、原告のほ地については、江原地区は極端に出来が悪くモザイク病が多発しており、一〇アール当り一六八キログラム(四五貫)程度の収穫しか見込まれず、岩倉地区のうち別表(二)の番号9、25ないし27、29、38記載のほ地は立枯病のため収穫は皆無に近く、それ以外のほ地は一〇アール当り七五ないし九三キログラム(二〇ないし二五貫)程度の収穫しか見込まれなかつた。七月二日から四日にかけて、藤村のほ地にうどんこ病多発の傾向が現われていたため防除作業を施し、同月五日には原告のほ地のうち別表(二)の番号1、2、6記載のほ地につき同様の防除作業を施した。七月二七日、原告のほ地のうち江原地区の前記ほ地以外のほ地に枯上がりがひどく現われ、八月になつてから特に江原地区が立枯、モザイク病に加えて、干害と過熟のため赤星病が発生し、著しい被害を受けた。

5  藤村は、六月一四日から逐次、農場の葉たばこ収穫を開始したが、これに先立ち、葉たばこ乾燥室につき、原告は一〇ないし一三号室を、藤村は一四ないし一六号室を使用することとし、乾燥後の葉たばこ貯蔵室については、藤村は一ないし三号室を、原告は四ないし六号室を、七ないし一〇号室は予備として、右のとおり使用することとし、原告と藤村の葉たばこが混合しないように手配した。そして、六月一四日から同月二八日までは土葉、同月二九日から七月七日までは中葉、同月八日から同月一八日までは上中葉、同月二〇日から同月二六日までは相中葉、同月二七日から八月一八日までは本葉と天葉(この収穫を「総カギ」と呼ぶ。)の収穫作業を行つた。この間、原告と藤村のほ地の収穫を同一日に行つたのは七月一四、一六、二〇日の三日間にすぎず、七月一四日は午前に藤村のほ地について、午後に原告のほ地について各収穫をし、七月一六日は、原告については岩倉地区のほ地のみから収穫をするなど混合しないよう配慮した。そして、六月二七日から八月二一日まで藤村の葉たばこについて、七月二六日から八月三〇日まで原告の葉たばこについて、それぞれ調理(等級選別をすること)を行つた。調理に際しては各貯蔵室ごとにその作業を行い、同時に複数の貯蔵室の作業を行うようなことはなかつた。この間七月二六日ころ貯蔵室の使用区分について従前の取扱いを変更し、一、二、三、七、八号室を藤村のほ地用に、四ないし六号室を原告のほ地用に改めた。七月四、五日には、原告の岩倉地区のほ地から立枯病に冒された葉たばこをも併せて収穫したが、収穫葉たばこのうち、乾燥後にも更に黒変して病気に冒されているものが出たため、これを焼却廃棄した(その分量は証拠上明確でない。)。続いて九月六日から同月一二日まで藤村の葉たばこについて、同月一三日から同月一五日まで原告の葉たばこについてそれぞれ包装作業を行つた上、一〇月一五日に原告の葉たばこを生産事務所に納入したところ、総重量二六四六キログラム、一〇アール当り重量一〇八キログラム、一〇アール当り収納代金一〇万一九〇一円であり、同月一七日に藤村の葉たばこを納入したところ、総重量六六五〇・五キログラム、一〇アール当り重量三〇二キログラム、一〇アール当り収納代金三九万四四三七円であつた。なお原告の平年度における一〇アール当り収納代金は四四万〇五〇七円であつた。

三  被告は、昭和五二年において、原告と藤村の葉たばこが混合して納入されたと主張するので、この点について検討する。

1  証人阿部健二(第一回)、同逢坂伸一、同神原春雄は、生産事務所の所長以下の担当職員が、被告の主張4(一)、(二)、(四)記載のとおりの作柄状況調査をし、その主張のとおりの結果を得た旨供述し、証人阿部健二(第一回)、同神原春雄の各証言により真正に成立したものと認められる乙第九号証の一ないし三の作柄状況調査書にも同旨の記載がある。

しかしながら、証人藤村昌一の証言によれば、五月二二日の植付検査の際、藤村が担当者である訴外逢坂伸一を案内した農場のほ地は江原地区のみであつて、時間は一、二時間程度にすぎなかつたこと、証人南充明の証言によれば、公社の職員が昭和五三年春ころ脇町役場に原告のほ地の所在場所を尋ねて来たことがあること、前掲甲第一号証によれば、七月下旬は相中葉ないし総カギの段階にまで収穫作業が進んでおり、八月四、五日ころは総カギの真最中であつたこと、証人阿部健二の証言(第一回)によれば、作柄状況調査書(前掲乙第九号証の一ないし三)は、いずれも原告が本件災害補償金交付申請を行つた後である昭和五三年二月二八日に作成され、作柄調査に関係した職員の記憶に基づいたものであることが認められ、これらの事実に照らすと、仮に被告主張の作柄状況調査が行われたとしても、原告らの農場全体につき正確な作柄状況が把握されたのかどうか甚だ疑問であるといわなければならない。

2  成立に争いのない乙第四六号証(鑑定書)によれば、たばこ(第二黄色種)の発育生理に基づき、原告のたばこ一株当りの最多収穫葉数を推定すると一八枚、藤村のそれは一七・四枚となるところ、前掲甲第一号証の農場作業日誌に現われた乾燥用のコンテナ及びハンガーの使用連数から平均一株当りの収穫葉数を推定すると、原告のそれは一〇・〇四枚、藤村のそれは二七・四九枚となり、特に後者についてはたばこの発育生理上ありえない数値であつて、これらのことから、藤村の納入した葉たばこには、原告の葉たばこが混入していたと言わざるをえない旨の記載があり、証人三宅元春も右と同旨の供述をしている。

しかしながら、右鑑定等の計算過程を見ると前掲甲第一号証に記載されたコンテナ及びハンガーの使用連数(合計五二二六連)に基づき推定した原告と藤村を合わせた農場全体の収穫葉数(一六九万二五三二枚)が、一株当りの最多収穫葉数に基づき算出した前同様農場全体の最多総収穫葉数(一六七万四二八五枚)を上回る数値を示していること、また、前掲甲第一号証に記載されたコンテナ及びハンガーの使用連数から平均一株当りの収穫葉数を推定するにつき、植付株数を基礎とし、これが植付時から収穫時まで全く損われることなく成育したことを前提として(このようなことは通常考えられない。)算出していること、更に事の性質上、計算の基礎たる事実に推定的要素が多分に含まれていることなど併せ考えると、前記鑑定書及び供述も被告の主張を裏付けるに足りない。

3  証人逢坂伸一及び同工藤安夫の各証言中には、右工藤及び逢坂は九月一三日、たばこ災害補償金交付規程に基づき、農場の葉たばこの管理状況等調査のため葉たばこ貯蔵場に赴いたところ、二階の右側の三部屋にそれぞれ農場の葉たばこが山積みされ、原告と藤村の葉たばこを区別するような表示はなく、居合わせた農場の作業員も、単に葉分け(等級選別)をしているにすぎないと説明した旨被告の主張に沿う供述部分があり、証人逢坂伸一の証言により真正に成立したものと認められる乙第四号証の葉たばこ区分保管状況報告書にも、右と同旨の記載があることが認められる。

しかしながら、前掲甲第一号証及び証人藤村昌一の証言によれば、九月一二日には藤村の葉たばこはすべて梱包が終了していることが認められ、この事実と、証人大垣秀子及び同上田照子の各証言に照らすと、前記各供述及び記載はたやすく採用することができない。

4  証人阿部健二(第一回)の証言により真正に成立したものと認められる乙第五、六号証、前掲乙第七号証の一・二によれば、八月中旬ないし下旬ころのたばこ包数割当てに際しての葉たばこ見込収量申告、葉たばこ納入時の申告重量及び納入検査重量を対比すると、原告については漸減しており、特に納入申告重量と納入検査重量とに一五四キログラムもの開差があり、他方藤村については漸増しており、同様二五〇・五キログラムもの開差があることが認められ、証人阿部健二(第一回)、同逢坂伸一は、右事実につき、原告と藤村の葉たばこが混合した結果であるとしか考えられない旨供述する。しかしながら、証人藤村昌一の証言によれば、包数割当てに際しては大ざつぱな見込申告をしているにすぎず、納入に際しても事前に特に計量せず、目分量で申告したことが認められ、納入申告と納入検査の重量に前記のような開差があつてもあながち不自然とはいえず、直ちに混入を疑わせる証左とはなし難い。

5  成立に争いのない甲第一五号証、証人阿部健二(第一回)の証言により真正に成立したものと認められる乙第八号証の一ないし三(作業実態聴取書等)には、農場の作業に従事した訴外大垣秀子、同藤本政雄、同藤本武子、同尾形政子は、同農場のたばこの収穫、乾燥、選別等の各作業に際し、原告と藤村の葉たばこを区別した取扱いはしなかつた旨の記載がある。しかしながら、証人阿部健二(第一回)、同上田照子の各証言により真正に成立したものと認められる乙第一六号証の二、証人大垣秀子、同藤本武子、同尾形政子、同上田照子の各証言によれば、右証人らはいずれも農場の育苗から選別作業等に従事したが、原告と藤村のほ地の区別は特に知らされてはおらず、収穫、選別の作業の際にはその都度藤村の指示を受けていたことが認められ、証人藤村昌一の証言によれば、訴外藤本政雄には乾燥後の掃除等の雑役を行わせていたにすぎないこと、乾燥の際、原告と証人の葉たばこを区別するため乾燥室前の黒板に農場と表示して、原告の分にはその頭に丸印をつけて原告と藤村の葉たばこを区別していたことが認められ、これらの事実に照らすと、前記証拠もまた被告の主張を裏付けるものとはいえない。

6  他に本件全立証を詳細に検討しても、被告の前記主張を認めるに足りる証拠はない。

四  そうすると、原告の昭和五二年における一〇アール当りの葉たばこの収納代金は病害及び干害により著しい損害を受け、平年度収納代金の一〇分の七に達しなかつたと認めるのが相当であり、したがつて、本件処分はたばこ専売法二四条、同法施行規則七条に反し、違法というべきである。

五  よつて、本件請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 上野利隆 田中観一郎 以呂免義雄)

別表(一)~(三)〈省略〉

(更正決定)

主文

右判決中、被告の表示につき「同県徳島市万代町三丁目五番地 被告 日本専売公社徳島地方局長 本田博貞」とあるを「東京都千代田区霞が関一丁目一番一号 日本専売公社徳島地方局長訴訟承継人 被告 国 右代表者法務大臣 嶋崎均」と更正する。

理由

右判決は昭和六〇年六月七日確定したものであるが、被告日本専売公社徳島地方局長が所属する日本専売公社は、同年四月一日、日本たばこ産業株式会社法附則一二条により解散したところ、同法には本件訴訟の被告たる地位の承継に関する経過規定は設けられていないので、行政事件訴訟法一一条二項の類推適用により国がこれを承継したものと解される。

よつて、主文のとおり決定する。

(裁判官 大塚一郎 以呂免義雄 宮本初美)

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